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公園のホームレス [日記]

何処の社会でも愛想のいい者がいれば無口な者がいる。
聞き込みにはワンカップ大関が効果のあるばあいがあり弁当やおにぎりが効果のある時もあった。
中にはコーヒが欲しいという趣味人もいれば乾電池を求められることもあった。
待ちぼうけを食わされ、翌日出直すともうその男はいなくなったと聴かされた。
重い足を引きずって家に帰ると娘は鼻をくんくんさせるし妻はブレザーとズボンを外に干し、下着は親指と人さし指でつまんで洗たく機に放り込んだ。
風呂は仕舞い湯。
明日は休もうと思っても朝になると靴を履いていた、蘇った聞屋根性である。
シアトルマリナーズのウインドブレーカーを着たホームレスが護岸に座って海を眺めていた。
星野は失礼といって隣に座った。
ワンカップの蓋をわざと音を立てて開けると酒がこぼれた。
大げさに騒ぐとホームレスが笑った。
星野は新しいワンカップをホームレスの目の前に差し出した。
軽く会釈するとホームレスが言った。
「昼間から呑めるのは俺達の特権だね、情けねえけどさ」
星野はホームレスの言った俺達にかすかな希望を持った。
「2月にこの辺にいた人をどなたか知りませんか?」
「2月か寒い頃だな」
ホームレスはワンカップを軽く揚げると喉仏を上下させながら三分の一ほどを飲み干した。
「2月に俺はここにいなかったけどいた人を一人知ってるよ」
星野は慌てなかった、ポケットから烏賊のつまみを出すと封を切りホームレスに勧めた。
自分も烏賊をくわえるとゆっくりとワンカップを口に運んだ。
「連れていこうか」
「この時間にいますかね」
「たぶんいるよ、夜にならないと動かない人だから」
「じゃ呑んでからでもいいわけだ」
星野はもう一つワンカップをホームレスに渡した。
もう少しこのホームレスから情報が欲しかった。
「その人ですが話を聴ける人ですか?」
「これがあればね」
ワンカップを軽く振った。
そのホームレスは酒が回り始めたのか昔は佐々木と呼ばれてたけどねと自嘲の笑いを浮かべて名乗った。
その佐々木の案内で護岸を少し歩くと崖を回り込んだところに小さな畳にすれば4畳ばかりの砂浜があり、そこにテントが一つ建っていた。
ごろごろ石の上に海草が干してあったが名前も食用かも星野はわからなかった。
佐々木がテントの中に入ってしばらくするとと60歳ほどの小柄な男が現れた。
「2月ごろにあの公園にいた人をさがしてるんだってな」
「ええ」
「どうしてだか訊いてもいいかい」
星野が手に提げてきたビニール袋の中の六本入りのワンカップ大関の
パックを開けながらである。
「お恥ずかしい話ですが、息子に家出されまして、この先のセブンイレブンで弁当とお茶を買ったことまではわかりましたがその先何処へ行ったのかわからない、ひょっとしてあの公園に来たのかと思いましてね」
「そういうことか、あんたも大変だな」
「このごろのガキは自分で大きくなったと思っていやがるからな」
佐々木が口をはさんだ。
「あんたの息子さんならまだ若いよね」
「25歳です」
「これ遠慮なくいただくよ」
ホームレスは目尻に皺を寄せて言った。
「どうぞ」
星野はリュックを下ろすとその中から本当にその先のセブンイレブンで買ってきたつまみを広げた。
「話を聞くだけだろう、気を使うことはないんだよ、あんただって物入りだろうしさ」
「会社も辞めましたし、正直申し上げれば…」
「そうだろうよ、息子探しも楽じゃないやね、佐々やん、あんたもそう思うだろう」
星野はこの公園で初めて仲間らしい呼び方を訊いた。
「人間何処に苦労の種が落ちてるかわかんねえもんだよ、田代のおやじさん」
「まったくだ」
そのホームレス、田代は二本目のワンカップ大関にかかっていた。
「ねえ、あんた、あんたの息子さん気はいい方だったかね、簡単にいつちまえばお人好かってことだけど」
「それが家出の原因だと思える節がありましてね」
うん、うん、と頷いて佐々やんが
「他人の保証人になってホームレスになった話も聞いたね、おやじさん」
「まあな、ホントだか嘘だかわかんねえけどよ、あの男の話はよ」
「ああ、あの男の話は当てにならないよ、俺もそう思った」
佐々やんはなかなか苦労人だった、うまく調子を合わせておいてから本題に切り込んだ。
「2月ごろこの辺りにいた人に思い当たることはないのかい?
親父さんなら知っていると俺は思うんだが」
「あるよ、なきゃア、ただ酒を飲んでることになるじゃねえか」
「あるんなら教えてやんなよ、この人だって早く知りたいだろうし、その後でゆっくり呑むのはどうだい、俺の言うことはのみこめない話かなおやじさん」
「いや、佐々やんのいう通りだ、俺が思うにはだ、この人の探しているのは旅人さんだと思うよ、親切な若いもんに100円玉を貰ったとかで紙に包んで大事にしてたからな、お守りだとかいって」
だいぶ酔いが回ってきていた、ここで聞き逃したらいつきけるかわからない、星野は焦った。
「その方は今どちらに?」
酔いの回ってきた二人のホームレスは星野の焦りを子を思う親の気持ちととったのだろう。
サッカー場知ってるかい?」
「どこのですか?」
「あのサッカー場何といったかな佐々やん」
「三ツ沢だよ」
「そうだ、そういう名前だ、今はそこにいるよ、旅人さんは」
「お名前はわかりますか?」
「わからない、100円玉の旅烏とかいってたよ、自分で」
「どうして三ツ沢に行かれたんですか?」
その理由は佐々ヤンによると
ー公園は夏になると花火をやりにくる若者の溜まり場になって彼らは酒を飲んで喧嘩をしたり暴れるからホームレスは避難するのだという、おやじさんのいるここまでは来ないから安全だが俺はそろそろ別の場所を見つけなければならないー
そういう環境にここのホームレスが置かれているからだそうだ。
「旅人さんは早め、早めに、手を打つ人だからな」
おやじさんはしんみりと、取り残された寂しさを滲ませながら何時戻ってくるかわからない、いや、再会さえおぼつかない旅人さんを懐かしがっているかのように言った。
ホームレスの暮らしの厳しさをかいま見て星野は帰途についた、手がかりが掴めた喜びよりも人間という生き物が生きていく、唯それだけのことから生じる寂しさを噛みしめていた。
幸せなんてポットからあがる湯気のようにはかないものなのだがそれを求めて生きて行かなければならないとしたら、それは業だ、社会は幸せを求めることの残酷さを認識していない、幸せを求めることを善として個人、個人に課してしまった社会はすでに落ちこぼれを作る宣言をしたのも同じことで人間の群れから一部を切り捨てていくことを認めたことを意味している。
彼等ホームレスへの対策も詰まる所は「幸せな人」を守るための防波堤を築く作業にほかならないのではないか、社会的合意とはそういうことなのだ。
歩みを停めた星野の口から
「まさか!」
そんな言葉がついて出た。
岸谷というあの青年が星野の心の動きを読んで今回の調査を依頼したのではないか?
その時、星野の頭に浮かんだ疑問だ。
不思議な雰囲気を持つ二人の青年、興津耕平、岸谷雅男の顔を思い浮かべた。
だが、調べてみる気にはならなかった、代わりに星野の頭に浮かんだのはホームレスと呑んだ酒を家に帰る前に新たな酒で洗い流そうということだった。
星野は緑を濃く含んだ初夏の風が頬を撫でて行くのに任せ茅ヶ崎駅前の飲み屋の暖簾をくぐった。


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茅ヶ崎住民R

このストーリー、リアリティがあるなぁ。
by 茅ヶ崎住民R (2009-04-03 01:48) 

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